<仕事の山場>
仕事においても、組分けの週が山場だった。
家族に話し、仕事に没頭する為に、3日間自分の時間をもらうことにしてあった。
その間、勉強を見ることができないことは、娘にも伝えていた。
心配だが、何とかその間は乗り切ってほしい。
当日についても、手筈は完璧なはずだ。
しかし、『万が一のこと』というのは、案外、頻繁に起こりうることなのだ。
万が一という言葉が適切ではないのかもしれない。
もし、今日何か起これば、3日仕事に集中するだけでは済まない。
週末は完全に終わりだし、来週も残業続き、新年まで食い込み、この先何か月続くか、わからない。
受験勉強の予定が、完全に詰んでしまう。
休日出勤の社内は静まり返っていたが、私の鼓動はうるさかった。
おそらく、私の人生において、最も手がかり、苦労した案件だ。
社内を走り回ったし、社長に何度もお願いした。
そうやって、やっとここまで来たのだ。
無事に終えたい。
ここ3日間ママ塾は休み、日常のことは母と夫に任せていた。
娘の塾バッグからノートを取り出すこともせず、スマホかパソコンを開くにしても、仕事関連の情報しか見ていなかった。
娘の顔は朝見たが、あまり元気そうではなかった。
何か相談事があったのかもしれない。
「ごめんね」、家を出る時そう言った。「今日で終わりだから」と。
娘は、まるで信じていないようだった。
今まで何度もこう言って、裏切ったものな、と心が苦しい。
遊園地に行く約束を延期した時よりも、水族館で仕事の電話に出て、戻ってきた時よりも、娘の顔が冷たいように見えた。
わかってる。私だってわかってる。
でも、口にする勇気はなかった。
有難いことに、案件は無事に成功した。
安心して、一気に疲れが出て、足元がふらついた。
あわよくば、ベッドで一週間くらい寝ていたい。
そう思うほど、クタクタだった。
駄目だ。まだ未習単元があるのだ。気をしっかり持たなくては。
折角ここまで来たではないか。今折れては駄目だ。
折角ここまで来たではないか。今折れては駄目だ。
明日から、また立ち上がらなくては。ママ塾再開だ。踏ん張れ。
満身創痍でここまできたが、緊張感が解けた今、急に勉強に向きあうのが辛くなった。
翌朝のアラームは、止める気力もなかった。
鉛のような体に鞭打って、未習単元の勉強を始めた。
たった3日ぶりだというのに、何を解いていたのか、すっかり忘れてしまっている。
大人の脳の劣化は著しい。
早く元のペースを取り戻さなくては。
冬期講習まであと2週間。
何が何でも未習単元を終わらせるのだ。
立ち上がれ。
もう一度立ち上がるのだ。