<気晴らしのグランピング>
夫が「二人の様子が心配だ。気晴らしが必要だよ」と言ってくるようになった。
確かに私も娘もひどく煮詰まっていた時期から、ようやく脱した今だった。
何とか夏前最後の組分けテストも終わった。
「7月の連休もあるし、一泊で良いから学校からも塾からも離れよう。
自然の中でバーベキューか釣りでもしよう。」というのが夫の提案だった。
普段であれば、二つ返事で断るのだが、最近の娘を見ていて、確かに息抜きが必要かもしれないと思った。
しかし、私はマリンスポーツは好きだが、山や川やキャンプなどのアウトドアがあまり得意ではない。
3人でバーベキューをしても寂しいし、川の魚より海の魚の方が美味しいなど、ぶつくさ言っていたが、
ふと、グランピングという、キャンプのラグジュアリー版が当時話題になり始めたことを思い出した。
それならば興味がある。
テントにはランタンやソファなどがあって、優雅だし、ジャグジーもハンモックもついているし、近くには温泉もあるらしい。
のんびりとマシュマロを焼きながら、星を見上げるのも悪くないと勝手に想像した。
私も疲れ切っていたのだと思う。
小5といえど、受験生に時間はない。
祝日の月曜日に出発し、翌日の朝、学校が始まる前までに帰宅するという強行プランに出ることにした。
夫は元々、アウトドアが趣味だったので、張り切っていた。
娘もガールスカウトでまずまず慣れているので、手慣れた動きで準備をしていく。
私はど素人なので、「シャンプーはいるの?」と何を持っていっていいかもわからずバタバタだ。
しかし、ずっと受験勉強に追われてきたので、支度も何だか楽しかった。
問題は出発日の朝起こった。
私が腹痛で動けなくなってしまったのだ。
「ごめんね、出発時間を1時間遅らせてくれる?」と二人に頼んだ。
胃も腸もきりきりとして、顔色も真っ青になった。
電車や飛行機で移動して、ホテルに宿泊するならまだしも、
車で移動して、キャンプ場に泊まるのにこの体調で大丈夫なのだろうか。
1時間、様子を見て何とか頑張ろうとしたが、
「ごめんね。どうしても具合が悪いから二人で行って」とギブアップ宣言をした。
夫は「えー!俺らだけなら普通のキャンプ場で良かったんだし、
折角高いグランピングを取ったのだから、体調落ち着くまで待ってるよ」
と言ってくれたが、一向に改善しないので、とうとう二人は出発した。
私は「あまりひどかったら休日診療で見てもらうね」と言って二人を送り出した。
病気の中、久しぶりに一人でいる家は、ひどく広く感じた。