<気晴らしのグランピング_後編>
出発した夫と娘からは、定期的に写真や文字が送られてきた。
私は吐き気がひどく、とてもスマホを見られる状態ではなかったので、夜まで見ることができなかったが、
到着した後は、川で遊んだり、温泉に行ったり、BBQを楽しんだようだ。
しかし夜になると他のお客さんも全員帰ってしまった上、
最後には、スタッフさんも帰ってしまって、山の中に二人きりになるという、
恐怖の体験をしたのだそうだ。
文面からは、怖いながらも楽しんでいる二人の様子が伝わった。
一方私は、トイレへ行ったり来たりを繰り返していた。
ひどい胃腸炎だった。
特に当たるような生ものは食べていないし、食物アレルギーはない。
過去を思い返す。
こういう倒れ方をする時は、大抵キャパオーバーな程仕事が忙しく、気を張った生活をした後に起こることが多かった。
例えば、ようやく多忙な仕事を一段落させて、休暇を取って台湾旅行へ行ったら、
現地で胃腸炎になり、観光を楽しむどころか、救急病院へ運ばれたこともある。
何しに行ったんだと休暇をいただいた職場の皆さんに笑われたし、
私も笑い話にしてきたが、実際は体が悲鳴を上げていたのだろう。
今の私の状態は、その時のレベルに近いのではないかと、はっとした。
「仕事に比べれば、何てことない。まだまだ余力がある」そう思ってきたが、体もまた過信してはいけなかったのだ。
受験の伴走は、仕事の大変さとは違うが、物理的な拘束時間も長いし、
何より肉体だけではなく、精神をすり減らす。
まさに骨身を削る作業だ。
これを境に改めて自分の体調を客観視し、今後備えようと思えたので、ある意味良い機会だったのかもしれない。
これが小6だったら、大変なことだ。
娘は自立しているタイプではない。
ママ塾が一日休みになれば、その日できる勉強量は10分の1程度まで下がるだろう。
出発直前に体調を崩したというタイミングも、「行かないで休みなさい」という啓示かもしれないと思った。
OS1が段ボールで買ってあったので、絶食してOS1で水分補給しながら、体を休めることにした。
翌朝二人は帰ってくる。
帰って来たら、また受験勉強の再開だ。
学校の間に病院へ行って点滴をしてもらおう。
考えてみれば、娘や受験と物理的に離れることは、受験勉強を始めてから、初めてのことだった。
ともかく眠りたかった。
ふらつく足取りでベッドに向かい、倒れ込んだ。
ふと気が付くと、辺りは真っ暗で夜になっていた。
夜、ようやく夫と娘からの大量の写真とLINEを見る。
二人の元気そうな様子にほっとした。
沢山眠ったこともあり、体から悪い菌も、悪いものも全て出した私は、随分体が軽くなった。
私は自分の体に「ありがとう、無理させてごめんね」と言いながら、再び永い眠りについた。