<ママ塾の休暇>
初めてのママ塾の休暇は、何だか気持ちが落ち着かなかった。
とりあえず娘が出かけた後、二度寝したが、起きた時に
「あれ?今日は何をやるのだ?えっと、算数は何だっけ?お弁当?」と混乱し
ふと我に返って、笑ってしまう。
夫から「娘がいない間、ママ塾も休んだら?」の提案を受けた際、
夫にもう一つ言われたことがある。
それは、「折角休むのだから、受験と娘の話をするのをやめてみよう」という話だ。
確かに、今の私は、無意識だと、すぐに受験の話題を口にしている。
意識して避けなければならなかった。
私が仕事を辞めると言った際、
「家に帰って、ご近所の噂話を聞かされような生活は嫌だ」と言っていた夫だ。
噂話は取り越し苦労だったろうが、
予想に反して、受験の話は多く、夫もうんざりしていたに違いない。
何も知らない受験の世界は、全てが新しく新鮮だった。
つい、何かを知る度に驚き、嬉しく喜んで
「今日ね、こんなことを知ったの!」と言うこともあれば
「この学校で、こんなお話があったの!素敵だよね」などと、言ってしまった。
反対に、娘が荒れて手に負えない時、勉強が行き詰った時などは、
完全に自分の世界に入ってしまい、心配をかけていたかもしれない。
夫の提案を聞いて反省した。
お洒落をして映画館に向かった。
娘が受験勉強を始めてからは、ほとんど映画館に来ていない。
映画を見る趣味を忘れていたし、「それどころじゃない!受験生の母たるもの遊んでいる暇はない!」と自己暗示をかけていたのだ。
久しぶりの映画は、大音量が耳だけではなく体全体を支配していく。
大きなスクリーンに映し出される色鮮やかな世界と、
重低音が鳴り響く映画音楽に身を委ねていれば良い。
次第に他のことは考えなくなっていった。
今はこの世界に浸ろう。
映画のお陰で、久しぶりに夫婦で映画の話も沢山できた。
予告で流れていたあの映画も見たいとか、誰それは貫禄が出て良いとか、
あの監督の新作が出るなんて知らなかったとか
受験が始まるまで日常的だった会話をおよそ半年ぶりにした。
それ以外にも、夫の仕事の話や、興味を持っていることにについての話も
ゆっくりと聞くことができた。
私は少しおかしくなっていたのかもしれない。
受験というレースに突如参加することになり、
トレーニングもしていない娘を選手として出場させなくてはならず
自分も素人なのに、そのレースを全力で伴走してきた。
右も左も分からずに。
何も考えずに。
力ずくで進もうとしすぎていたのかもしれない。
自分が力み過ぎていたことに、ようやく気が付いたのだった。