<走れ!夏!!>
二人の息がぴったりあうタイミングは滅多にない。
一秒も無駄にはできなかった。
やる気に満ち溢れていたとしても、そこはまだ11歳だ。
娘は、大人びた子どもではなく、
自己管理が素晴らしくできるタイプでもない。
何より、このやる気がいつまで続くかもわからないことが、恐怖でしかない。
小5になって何度も悩まされた、
爆弾の様に、突然やってくる、やる気スイッチの故障。
その地雷がどこにあるのか、まだ見極められていなかった。
折角入ったやる気スイッチがオフにならないよう、慎重にスケジュールを立てていく。
まずは、帰宅後の娘にやりたいものは何か、聞くことにしていた。
娘は帰宅後が一番嬉しそうだ。
意気揚々と、塾リュックから今日のテストや宿題ノート、
そしてH先生にもらったプリントを取り出す。
「見て!今日もH先生にプリントくださいって言ったの!」娘が言う。
「待っている間に、Y先生とか、Kさんと話したんだ。
『おー満月!頑張ってるな!』とか『夏らしい、素晴らしい顔をしていますね』
って褒められちゃった!
あとは、今日は〇〇ちゃんが先生に質問してたよ。
私も質問したいなー!!今日の勉強で、何か質問する問題出るかなー」
そうか。
入塾当初は、あんなに緊張していた先生への質問も、
今となっては、わざわざ何か質問する問題がないか考えるほど
H先生の所へ行きたいのだなと微笑ましく思いながら
「すごい!すごい!!」と私も喜ぶ。
話しながら、娘は白紙に
「①宿題
②プリント
③バックアップ(テキスト)のコピー」と書き込んでいる。
「ふんふん。なるほど。いいね!じゃあ、今日はこんな感じでやろうか。」と言って、
私の準備したスケジュールの中に、娘がやりたいと言った勉強を挟み込んだ。
実は、毎日やりたいことはさほど変わらないので、
あらかじめ、大体の時間は決めてあるのだが、
これは、『一緒に勉強の予定を作って、一緒に勉強する』と、
本人に思ってもらう為のひとつの演出だった。
娘は『 Let's 』の形で声をかけるのが一番やる気が出て、
取り掛かりも作業時間も早い。
「〇〇やってね」「〇〇やっておいてね」という言い方をすると、
一人でできないことはないのだが、無駄に時間がかかってしまうし、
下手をするとその間に、やる気がなくなってしまう恐れもある。
一瞬の隙も見逃したくなかった。
さあ勉強を始めようというタイミングで、
娘は、はっと気が付いて本棚に走って行った。
そして、大切そうに、ハチマキを持って、ニコニコと笑って戻ってくる。
思わず私も微笑んだ。
そうして、夕方のママ塾が始まった。