<組分け当日>
試験後、いつも通り夫から連絡が来た。
「無事に終わりました。今から帰ります」と書いてある。
「様子はどう?うまくいった?」といつも通り返事をした。
この夏はよく頑張った。
予定していたママ塾課題も、かなりやり込んだ。
特に後半は、集中力もあったし、コンディションも良かった。
何より先日のレベルアップで信じられない結果も出した。
これだけやったのだ。
結果がテストの何らかの良い形となって、返ってくるに違いない。
私達がこの夏休みに考え、目指していることとして、
早稲アカの「もう一つ上のクラスに入る」というものがあった。
クラスが代われば、担任の先生も変わってしまう。
しかし、娘は、こんなに懐いているH先生から、担任の先生が代わっても、
なお、一つ上のクラスに上がりたいと望んでいた。
最終的にどのクラスに在籍した状態で、受験に突入するか分からないが、
望むクラスの授業を、一度は体験させてあげたかった。
もしかしたら、本当にこの勢いに乗って、上のクラスに上がってしまうかもしれない。
上のクラスは、厳しそうなベテランの先生だった。
クラスアップが決まったら、すぐに先生にご挨拶に伺わなくては。
呑気に、そんなことも考えていた。
夫からの返事はなかなか来なかった。
同じ試験会場で会ったお友達と一緒に帰っているのかもしれない。
今思うと、心が緩んでいたのだろうか。
通常なら、悪いことが怒る前は、「嫌な予感」がし、
それは当たってしまうことが多いのだが、
不思議なことに、得意の第六感も全く働いていなかった。
むしろ真逆で、とても満たされ、幸せだった。
ようやく夏が終わる。そう思い、ほっとした。
本当に幸せな日だったと思う。
私は鼻歌を歌い、
「開運!開運!」と言いながら、スマホを置いたまま、
手間がかかるお風呂のカビ取りをしていた。
ついでにシャワーも浴びて、機嫌よくリビングに戻った時に、
夫からの連絡が来ていることに気が付いた。
見ると、「今は何も話したくないって。すごい落ち込んでる」とある。
私は驚く。一体何が起こったというのだろう。想像もつかなかった。
幸せから一転、ここで初めて不安な気持ちになった。
もうすぐ一時間、もう帰って来てしまうではないか。
今から何ができる?
そう考えた私は、はっと気が付き、クローゼットに駆け込んだ。
そして、娘が泣いて飛び込んできた時の為に、
触り心地が柔らかい、娘の好きな服に着替えた。
間髪入れず、ガチャリと玄関が開く音がした。