<H先生に謝罪とお願いの電話をする>
算数の組分けテストの結果は、目標点より50点以上の差が開いてしまった。
それどころか前回よりも更に20点下がった。
算数は200点満点なので、半分も取れなかったことになる。
どうやって元気づけたら良いのだろうか。
娘はいつもより引きずっていて、私ではもうこれ以上助けてあげられない。
こんな娘を助けられるのは、やはり娘の大好きなH先生しかいないだろう。
H先生は、生徒からは親しみやすく絶大な人気を誇る先生だが、
親には厳しい意見も含め、大変ハッキリとおっしゃる先生だ。
ゆえに、私はH先生と話す時は、かなり緊張する。
「そこまで面倒見切れません」と、
ぴしゃりと言われてしまったらどうしよう。
一度娘と話していただけませんか。と頼んだところで、
「それは親御さんの仕事じゃないですか」と言われてしまったらどうしよう。
何度も電話をかけようとしては、躊躇した。
電話を持つ手が緊張で震える。
先生はご不在だった。
折り返しの電話を待ったが、なかなかかかってこないので
きっと夜の授業後だろうと思い、とりあえず泳ぎに行くことにした。
娘を励まし続け、精神的にも肉体的にも疲れていた。
こんな時は溜め込まず、リフレッシュした方が良い。
泳ぎ終わり、身支度をしていた時だ。
更衣室でスマホが鳴った。
急いで更衣室から出て電話を取ると、H先生だった。
運動アドレナリンのお陰で、物怖じせずに、話すことができた。
あれだけいつも教えて頂いているにも関わらず、情けない結果で
先生に申し訳なく思っていること。
胃腸炎になり、直前にテストに向けて調整できなかったことを話す。
塾も休んでいたので、H先生も納得して下さっていたようだ。
「わかりました。本人は落ち込んでいるでしょうから、話しかけてみます」
そう、H先生はおっしゃった。
なんてありがたいことだ。
私はひれ伏す気持ちでお礼を述べる。
更に、その後、先生の口から予想もしていない言葉が飛び出した。
「今回は、体調が悪かったでしょうが、満月は確実に伸びています。」
「近いうちに、必ず一つ上のクラスから声がかかると思います。」
私はびっくりした。
今のクラスと一つ上のクラスの境目は大きい。
上のクラスと言えば、御三家や難関校など、偏差値60以上の学校を受験するクラスだ。
娘の算数の頑張りは知っている。
算数が伸びているのも知っている。
でもそれは、私の思い込みではなかったということだ。
「ありがとうございます!先生には何から何までお世話になって。」
目を潤ませながら、スポーツジムの入り口で
私は何度も頭を下げた。
喜びのあまり、周りの視線も気にならなかった。