<どうするクラスアップ>
K先生のおっしゃった
「お母さん、『かわいい子には旅をさせよ』という言葉があるじゃないですか。
満月にも旅をさせましょう。」いう言葉に、私は返すことができなかった。
娘は何と言うだろう。
そういえば今のクラスに上がってから
一度も「クラスアップしたい」とか「クラスアップの為に頑張る」という類の言葉を聞いていない。
ここまで大きな判断は娘の意志を尊重してきた。
「受験をしたい」と言い出した時も
「〇〇中を目指したいから、今のクラスに入りたい」と言いだした時も。
今はどう考えているのだろう。
「先生、それでは一度娘と話す間お時間をいただけないでしょうか」と伺うと
先生は「ご連絡お待ちしています」とおっしゃったが、
『NOという返事はなしですよ』という無言の圧力を感じた。
「このクラスにいたい」という気持ち以上に、トップクラスに対しての抵抗感があった。
どうも嫌な予感がするのだ。
私は自分の第六感を頼りにしていて、大概の場合それは当たる。
その第六感が「今のクラスに留まるべきだ」と言っていることは間違いない。
しかし、今回は自分のことではない。
それはただの過保護なのだろうか。
電話を切ってから「かわいい子には旅をさせよ・・・」と念仏の様に繰り返した。
結局、私は言葉を選びながら娘に伝えることにした。
クラスアップの電話が来たと聞くなり
「嫌だ、嫌だよ。クラスアップしたくない。やっと入ったクラスなんだよ。
やっとついていけるようになってきたところなんだよ。」と娘は言った。
やはりそうか。望んでいなかったのか。
「うん。そう思って何度もお断りしたんだけれど、
K先生が『かわいい子には旅をさせよ』っておっしゃるからママも考えちゃって」
と言うと、娘は黙り、どういう意味かと訊ねてきた。
「先生方としては『まだまだ伸びる可能性がある』と期待していらっしゃるってことだと思う」と正直に私は答えた。
娘は黙っていた。
そしてようやく言った。
「わかった。先生が期待してくれているなら、私頑張ってみるよ」と。
予想外だった。
しかし娘が決めた以上これ悩んでも仕方ないので、すぐにK先生に電話をして伝えた。
トップクラスか。
そこは低学年から下積みをしているお子さん型の中でも
桁違いに優秀なお子さんが揃ったクラスなのだろう。
早稲アカのポスターのトップページにある大きなフォントで書かれた
御三家や同等のレベルの学校を受験する方の軍団だ。
授業のスピードも理解力も違うに違いない。
一年前は偏差値35だった娘が入って潰されないだろうか。
今までのクラスアップと違い、私の心は重かった。